大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)331号 判決

原告

株式会社佐竹製作所

被告

特許庁長官

右当事者間の審決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

特許庁が昭和52年審判第2954号事件について昭和55年9月30日にした審決を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告は、主文と同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第2請求原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和47年7月29日、特願昭34―3486号(昭和34年2月3日特許出願、昭和35年10月3日出願公告。以下、「原出願」という。)を旧特許法(大正10年法律第96号。以下、単に「大正10年法」という。)第9条第1項の規定により分割し、その1部を名称を「穀粒選別機」として新たな特許出願をした(以下、この発明を「本願発明」という。)ところ、昭和51年12月10日拒絶査定を受けたので、昭和52年3月8日これに対する審判を請求し、特許庁昭和52年審判第2954号事件として審理されたが、昭和55年9月30日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年10月15日に原告に送達された。

2  本願発明の要旨

圧搾して多数の凹凸面を形成した選別盤を縦方向に斜め上下に揺動し、該盤の横方向の一方には供給口をのぞませ、他方には排出口を設けて成る穀粒選別機。

3  本件審決の理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

請求人は、分割出願による出願日の遡及を主張しているので、まず本願発明の出願日について検討する。

本願発明は、原出願が出願公告された昭和35年10月3日より後に原出願の分割を主張して出願されたものである。ところで、原出願に適用される大正10年法の第9条第1項に規定する特許出願の分割の対象となる発明は、当該特許出願の願書に添付された明細書の「特許請求の範囲」に記載された発明を指し、明細書の「発明の詳細なる説明」又は願書に添付された「図面」にのみ記載された発明は含まないと解され、また分割出願をしうる時期は、出願人が願書に添付した明細書又は図面について訂正をすることができる時又は期間内に限られると解される。そこで原出願をみると、原出願の特許請求の範囲にはただ1つの発明しか記載されておらず、しかも、原出願について明細書又は図面の訂正をすることができる時又は期間内に分割出願がされたものでもない。したがつて、本願発明は適法な分割出願によるものではないから、その出願日は現実の出願日である昭和47年7月29日である。

しかして、本願発明と特公昭35―14468号特許公報(原出願の公告公報)に記載された発明とを対比すると、両者は同一であるから、本願発明は特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

4  本件審決の取消事由

審決が本願発明について、分割出願による出願日の遡及を認めなかつたのは違法である。

大正10年法の第9条第1項に規定する「2以上の発明を包含する特許出願」とは、「特許出願を構成する願書、明細書及び図面等に2つ以上の発明を含んでいる。」の意味で、分割出願の対象となる発明は、原出願の願書、明細書及び図面等に含まれている2つ以上の発明の1つを指すもので、原出願の明細書の特許請求の範囲に記載された発明には限らない。しかも右第9条その他の条文に照しても分割出願をしうる時期について、出願人が明細書又は図面について訂正をすることができる時又は期間内に限る、という明文の規定はない。

したがつて、審決が、大正10年法の第9条第1項に規定する特許出願の分割出願の対象となる発明は、明細書の特許請求の範囲に記載した発明を指し、明細書の発明の詳細なる説明又は図面のみに記載した発明は含まないとし、また分割出願をしうる時期は、出願人が明細書又は図面について訂正をすることができる時又は期間内に限るとしたのは誤りである。これらを前提として審決が出願日の遡及を認めなかつたのは違法である。

第3答弁

請求原因事実は、すべて認める。

理由

1  請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  本件につき適用がある大正10年法の第9条第1項の規定によれば、2以上の発明を包含する特許出願を2以上の出願としたときは各出願は最初の出願の時にしたものとみなされるところ、右規定に基づいて原出願から分割して新たな出願とすることができる発明は、原出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載されたものに限られず、その要旨とする技術的事項のすべてがその発明の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に記載されている場合には、右明細書の発明の詳細な説明ないし右願書に添付した図面に記載されているものであつても差し支えない、と解するのが相当であり、また、大正10年法のもとにおいては、分割出願をしうる時期についても、原出願について査定又は審決が確定するまでこれをすることができると解するのが相当である。

そうであれば、これと相反する解釈を前提として、本願発明について出願日の遡及を認めなかつた審決は違法であり、その違法は審決の結論に影響を及ぼすものである。

3  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(石澤健 楠賢二 杉山伸顕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例